団地の入り口から2014/08/12

育ったのは、郊外というには半端に近すぎる、農地から転身したテニスクラブがあちこちにあるような街だった。増築を重ねてがたがたした木造家屋に住んでいた私は、団地に住むともだちのうちに遊びにいくのが好きだった。せまくて急な階段を踊り場で切り返しながらのぼっていく。バタン(ガシャン)としまる金属製のドアにはチェーンロックや覗き窓、新聞受けがついている。四角くてコンパクトな間取りの中に、二段ベッドや小さなお風呂場がおさまっていたりするのにひかれた。建物と建物の間にある公園で遊んだり、草むらの陰に秘密基地のようなものをつくったり…  
30年以上が経っても、団地はそのまま残っている。塩漬けされたようにかわらない風景。この街をつらぬく大きな道路が計画されていて、その事業がいっこうに進まないから地主たちもじっとがまんくらべしているときく。ぱっとみると同じだけれど、柱や壁の奥の芯のあたりがじわりじわりと劣化してきているにちがいない。私の体も。ともだちの行方は知らない。